先日、名古屋の展示会で見かけない出展を見かけた。
TASCOで有る。アメリカのFLIR(フリアー)という会社の放射温度計と熱画像カメラを展示していた。
放射温度計とはいうものの熱画像カメラと大差無い使い方が出来るTG165という製品販売が主たる展示品のようだった。
通常の放射温度計は、計測装置からレーザー光を照射してその照射されている部位の温度を非接触で知る事が出来る物や、カメラのように目的物をレンズを通して見てその部位の温度を知る事が出来る物であった。
TG165は液晶モニターを見ればモニターに写っている映像の中に温度の異差を色で見る事が出来るので温度の高い所や低い所を一目で見つける事が出来るようになっている。
これって、まさに熱画像カメラじゃないか!!モニターに写っているその箇所の温度が表示される。
従来の放射温度計は温度が高いであろう場所を知っていてその部位の温度を測るという使い方だったが、TG165は画面を見れば温度の高い所(低い所)が一目で見つけられその部位を画像の中心に持って行く事で瞬時にその部位の温度を測定する事が出来る。
説明員の方に聞くと、2日間の展示でこの放射温度計について説明を求めた人は誰一人いなかったとの事、同時に展示していたボアスコープには関心が有って手に取って見たり質問したりした人は結構な人数いたということだった。
自動車整備で「温度」は非常に多くの情報を与えてくれるのだが、従来の放射温度計ではどこが温度が高いのか低いのかを知る方法が無かったので、手で触ったりして熱い、冷たいなどの情報からその部位の温度を測ってみようという事しか出来なかったが、TG165は見るだけで温度差が分かるので即知りたい部位の温度を測る事が出来る。
例えば、8気筒エンジンがどこかの気筒で失火している。オフボードテスターを繋いで車種や年式など設定してパワーバランステストをしてどの気筒が失火しているのか判別する。
もっと簡単な方法は、エキゾーストマニホールドに水を掛けて蒸発する様子を調べるという手もある。TG165で見ると、失火しているエキゾーストマニホールドは温度が低いので一目で失火している気筒を見つける事が出来るのである。水を掛けなくても見ただけで判別できるである。まさにあっという間に診断の初期段階にたどり着ける訳だ。
エアコンの冷えが悪い。ガス圧を測ってみたら高圧側が異常に圧力が高い。どこか詰まってる?そんな時配管をTG165で見てみると、詰まっている箇所の前後には必ず温度差が有る事からその詰まりの部位を知る事が出来る。といった使い方なのだが、残念ながらTG165は温度の異差を画像で表示するだけで、その温度差が正しいかどうかは使うものが判断しなくてはならない。
ラジエターの水管の詰まり。新しい車では余り見掛けなくなったが、旧車で良く有るのがラジエターの水管が詰まって放熱が悪くオーバーヒートを起こす。これを熱画像で判断するにはコツが必要だ。サーモスタットが開いた瞬間に水がラジエターを大量に通過しだすので詰まっている水管の温度は低く、良く通る水管の温度は高い。サーモスタットが開いた直後に詰まっている水管とよく水が通る水管の温度差がはっきりするが、やがて良く通る水管からの輻射熱や熱伝導により詰まっている水管も通っている水管も同じ温度になってしまうので熱画像では発見が出来なくなってしまう。このような理屈が分からないと使いこなす事が出来ないのである。ラジエターのアッパータンクとロワータンクの温度差はどれくらいが良いのかなど、多くを見て良い範囲を自分で知って置く事も大切である。
道具は使いこなしてその価値を見出すことが出来るが、TG165は今まで一番安い熱画像カメラでも20万円近くしていた物が、簡素化されているとはいえ6万円台で手に入れる事が出来るのは自動車整備士にとって夢のような価格である。・・・はずなのだが・・・
TASCOが5年ぶりに自動車整備関連の展示会に来たと言っていたが、TG165の需要を見込んでの事だろうと思う。フリアーのホームページでも盛んにTG165を宣伝している。TG165は単なる熱画像カメラでは無く、デジタルカメラの画像に熱画像をラップさせて表示するという画期的な方法で物の輪郭がはっきり見られるのでどの部位の温度を見ているのかくっきり画像で見られるのが素晴らしいのだが・・・私の熱画像カメラは、熱画像だけしか表示しないので周囲と同化した温度ではその輪郭を知る事も出来ない。(殆どの物体は個別の温度になるので温度による輪郭を見る事は可能だが明確な輪郭はこTG165ほどくっきり見られない)実際私の使用範囲ならTG165で充分事足りるし、かえって使いやすいだろうと思う。現在使用している製品は過去のフリアーの製品で70万円前後の製品なのだが・・・1年前にこの製品が発売されていたら飛びついて買ったのに!!!!!
残念ながらこの製品は使い方を説明してその論理を諭して有用性を知って貰わなくてはフリアーの思惑通りに製品を販売する事は出来ないだろうと思う。